旅の現象学

2012年から2013年にかけてのユーラシア大陸自転車旅行の記録です。

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 朝、フェリーは博多港に到着。だんだんと近づいてくる日本を甲板から眺めたいと思っていたのだけど、身支度をして甲板に出ると港はもうすぐそこ。空はどんよりとした曇り空。

博多港。おはよう、日本。
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 8ヶ月ぶりの日本では、まずイミグレーションの人の愛想の良さ、腰の低さが懐かしくそして新鮮だった。サービス精神のあるイミグレなんて、たぶん世界中探しても他にないと思う。預けていた自転車を無事に受け取り、外に出て走り出す。交差点では車が来なくても信号が赤なら皆が律儀に止まって青に変わるのを待っている。道路にはたくさんの車が走っているのにクラクションはほとんど鳴らされない。コンビニに入る。目新しいお菓子やアイスが目に止まる。日本の消費者に向けて作られたパッケージやコピーは、僕の食欲やら消費欲求やらに自分を手にするよう力強く訴えかける。僕は迷った末にスティックタイプのチーズケーキを手に取りレジに向かう。レジには元気なおばちゃんがいて、お客様に向けて作られた笑顔と声で僕に接する。それはただ型にはまった笑顔や声だとは感じられない。その笑顔や声の中に、僕は個人的な誠意のようなものを感じる。それが心地よい。僕もせいいっぱいの笑顔を作り、「ありがとうございます」と言って外に出る。それからまた走る。見慣れた形状の建物や看板、吉野家のお米の味、エトセトラ、エトセトラ…旅に出る前は空気のように当たり前のものだったいろいろなものに再会する度に、ああ僕はここで育ったんだな、という実感がしみじみと湧いてきて、にやにやしながら走る。

福岡の中州近く。
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 夜はイスタンブールで出会った、僕とは逆周りでユーラシア大陸を自転車で走った友人の家に泊めてもらった。日本も結構自転車で走っている彼と、埼玉までのルートを地図を見ながら一緒に考える。「阿蘇の方、いいですよ」と彼は言う。大きく広げた九州の地図を見ると阿蘇は福岡からずいぶん下の真ん中の方にあるから、僕は「思いっきり遠回りじゃん」と応える。「でも熊本まで大体100km、一日で行けますよ。阿蘇はそこからたった50km位だし」彼がそう言うのを聞いて僕は少し驚く。それから地図の縮尺を確認して初めて、九州が思っていたよりもずっと小さいことに気付く。旅以前と旅後で距離の感覚がだいぶ変わっている。自分の走ってきた距離の長さを具体的に感じた瞬間だった。それから改めて考えてみると、大した遠回りだとは感じなかったので、結局、阿蘇の方を走って、別府から四国にフェリーで渡るルートを走ることにした。

 熊本は福岡から一日で行ける距離だったけど、途中友人に会ったり、美味しそうなラーメン屋に寄ったりで二日かけて走った。特別に面白いルートではなかったと思う。でも久しぶりの日本の道を、僕はさまざまなものから故郷を感じながら走った。例えば案内標識に書かれている地名。日本の地名が僕の中に喚起するイメージは、海外の地名のそれと比べてとても重層的だ。海外の地名から喚起されるイメージは、本やテレビなど第三者の視点を通して得たイメージが中心になって形作られる。そのイメージはどこか一方通行だ。

 それに対して日本の地名から喚起されるイメージは、第三者の視点を通して得たイメージだけではなく、これまでの人生で関わりを持ったその土地にゆかりのある人達に関する思い出、字から連想される別の地名や言葉、更にその別の地名や言葉に関する思い出と、意識に上るものから上らないものまで色々なイメージが、重層的に響き合って形作られる。海外の地名から喚起されるイメージが一つのメロディーなら、日本の地名から喚起されるイメージは交響曲のようだと思う。

 そしてそれは地名だけじゃなく、人の表情や景色にも言える。旅に出る前は空気のように当たり前だったこの国の人の表情や景色が、僕が生きてきた二十数年間の記憶と大きなものから小さなものまで様々なトンネルで結びついていることを僕は感じる。そしてそういうことを感じる度に、ここが僕の故郷なんだとしみじみ思う。

道の写真を何枚か。
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熊本では熊本城に行ってみた。色々な文化の建築物を見てきた後に日本の城を見ると、その独特さがより感じられて期待していた以上に楽しかった。
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254日目の走行距離約93km(ロカ岬からの走行距離12290km)
255日目の走行距離約79km(ロカ岬からの走行距離12366km)
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コメント

おつかれさま

もう旅も終わっているのだよね。お疲れ様。総括をして欲しいな。料理が美味しかった国とか、美人が多かった国とか、そんな話も聞いてみたいな

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Re: おつかれさま

返信が遅くなってすいません!二週間くらい前に旅を終えずっと府抜けていました。とりあえず後何記事かでゴールまでを書いたあと、総括も取り組めたらと思います。

> もう旅も終わっているのだよね。お疲れ様。総括をして欲しいな。料理が美味しかった国とか、美人が多かった国とか、そんな話も聞いてみたいな

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さんふぃ

Author:さんふぃ
ポルトガルロカ岬から、日本に向かって主に自転車で旅行中です。

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