旅の現象学

2012年から2013年にかけてのユーラシア大陸自転車旅行の記録です。

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 ネパール国境付近のスノウリで一泊し、翌朝、国境を越え、ネパールに入った。取りあえずの目的地はアンナプルナなどヒマラヤの高い山々を望むことの出来るポカラという街。

多くの人が行きかう国境。イミグレーションは道の脇の小さな小屋なので気付かずに通過しそうになった。
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国境を越えて30kmくらい平地を走るとヒマラヤ山脈への入り口が見えてくる。
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地図を見て覚悟を決めていたけど、山肌を縫うように延々とカーブが続く。
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段々畑の景観が素晴らしい。
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ちょくちょく町や集落もある。
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 ネパールは途上国の例にもれず子供の数がやたら多い。彼らは使えなくなった自転車のタイヤや、手作りのクリケットのバッド、おはじきなど、少ないものと自分の頭と体を使って、思いっきり遊ぶ。僕を見つけると、他のどこの国の子供たちよりも警戒することなく、無邪気に「バーイ」と言って、手を振ってくる。ネパールは経済的にかなり貧しい国で子供の就労などが問題になっていたりもするのだけど、僕の目に映る彼らの大部分はとても幸せそうに見えた。

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 二日でポカラに着く予定だったのだけど、二日目に食べものにあたったのか久しぶりに本格的に体調をくずしたため、その日はあまり走らずに休んだ。翌日、まあ何とか走れそうだったので出発したのだけど、登り坂で力が入らなかったため、思っていた以上に進むのに時間がかかり、ポカラまであと15km程のところで完全に日が落ちてしまった。途中の町で駆け寄ってきた小さな少年が「夜は走っちゃだめだよ」と言っていたのが予言のように思い出される。

 あんまりいい予感がしないながらも、泊まる場所もないので走り出すと、一台の車が止まって、乗っているおじさんが話しかけてきた。窓からは彼の家族なのか、子供も含めた何人かが乗っていた。彼は、この先はジャングルエリアで夜は危ない、と僕に伝えた。僕はジャングルという響きに若干びびりながらも、進むしかないので進むと言うと、彼はじゃあ俺が後ろからライトで照らすよ、とそれが全然大したことではないかのように言った。僕が、僕はとてもゆっくりだからそれは悪い、気にせずに行ってくれ、と伝えても、「オーケー、オーケー」と言ってきかない。僕が走り出すと、彼らの車はその後ろからライトを照らしながらゆっくりとついてきた。

 真っ暗で鬱蒼とした曲がりくねった道だったから、とても助かったのだけど、山賊の話や、家族ぐるみの詐欺の話をどこかで耳にしていたりもしたので、少し警戒もしていた。登り坂に差し掛かったとき、車が横にやってきて、おじさんが長い登りだからここは自転車を乗せてけ、と言った。僕は彼らを100パーセント信じていた訳ではないし、自分の力で登りたいという気持ちもあったから、ここからは自分で行くから心配しなくて大丈夫、と伝え、お礼を言った。彼はオーケーと言って車を出した。

 やっぱり普通にいい人達だったんだなぁと思いながら走り出すと、ちょっと先の湧水が出ているところで彼らの車は止まっていた。僕が自転車を止めると、彼らはじゃあ行こうかと言った感じで、のろのろと坂を登る僕の後ろからまたライトを照らしてついてきてくれた。僕は相変わらず、彼らに感謝しながらも、同時にもし彼らが悪い人達だった場合の色々なケースを頭の片隅でシミュレートしていた。こういう場合にはこういう言葉で逃げようなど。これは旅の間に身に付けた処世術のようなもので、僕は相手に自分が疑っていることを見せずに、あくまで頭の片隅だけでそういうことを考える。最終的に相手がいい人だった場合でも、そのことで罪悪感を感じたりもしない。それが自分の身を守るために僕が決めている方針のようなものだからだ。
 
 坂を登り終わり、更にそこから進むと民家の光がぽつぽつと見え始めた。ここまで来れば車のライトがなくてもそんなに苦労せずに進めそうだったので、僕は自転車を止めた。ここからは大丈夫だから一人で行ける、と伝えるつもりだった。彼らがついてくるままに任せるのではなく、自分でここまででいいと伝えて別れるのが一番安全に思えたからだ。車が横に来るとおじさんは「ここがポカラだよ。さあ行こう」と言った。その声なのか、言い方なのかが、なぜだか僕に、もう彼らを疑わずに信じてしまおうと決めさせた。それで頭の片隅でやっていたシミュレートも止め、彼らの親切に身を委ねることにした。ポカラに続く下り坂と相まって、その決心には高いところからバンジージャンプするような気持ち良さがあった。もちろん紐がついていることを僕は信じている。あるいは信じようとしている。

 それからしばらく走り、街灯のある道に着いて今度こそ何の問題もなく一人で走れそうだったから、再び自転車を止めた。僕がお礼を言うと「オーケー、オーケー」とおじさんは言い、そのままさらりと去っていった。お互い名前も何も訊かないままだった。名前も知らない僕のために、坂道を自分で登りたいという僕のわがままにも面倒くさい顔一つせず、一時間以上も後ろからライトを照らしてくれた彼らへの大きな感謝と、彼らを信じることを選び賭けに勝ったような爽快感を感じながら、僕はポカラの街を宿を探して走った。

211日目の走行距離約63km(ロカ岬からの走行距離9978km)
212日目の走行距離約30km(ロカ岬からの走行距離10008km)
213日目の走行距離約91km(ロカ岬からの走行距離10099km)

ようやく10,000km突破。
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さんふぃ

Author:さんふぃ
ポルトガルロカ岬から、日本に向かって主に自転車で旅行中です。

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