旅の現象学

2012年から2013年にかけてのユーラシア大陸自転車旅行の記録です。

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 予定では、バラナシの後はそのまま東に進み、バングラデッシュの首都ダッカを目指すつもりだったのだけど、ビザの期限やバングラデッシュの政情などの理由から、北上してネパールの首都カトマンズを目指すことにした。

バラナシまではデリーとコルカタを結ぶ幹線道路をずっと走ってきたのだけど、このルートではそんなに大きくない道を通る。
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そして二日目、更に道は細く、ローカルな感じになっていき…。
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 最後には消えた。久しぶりにグーグルマップがやってくれた。ルート案内で出てきた道が完全にない。誰に地図を見せてもこんな道はないと言う。かなり大きめの縮尺でも表示される道なのに…。それじゃあどう行けばいいのかと聞くと、教えられた道は約50kmも遠回りで、しかも地図に載っていないどローカルな道だった。

 グーグルマップを恨みながらその道を走りだしたのだけど、走ってみるとそれが実に素晴らしい道だった。スペインを走っていたときもとんでもない山道を案内されたことがあったのだけど、その道も苦労はあれど素晴らしい景観の道だったのを思い出す。 グーグルマップ、ニクイやつめ。

延々と続く、麦畑の中を道は延び、
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ときどきこんなタイムスリップしてきたような集落が現われる。
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集落と集落の間には、人や家畜がのんびりとした足取りで行きかい、車やバイクは滅多に通らない。
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 この道の雰囲気は、これまで僕がインドで感じてきたものと大きく違った。他の町で溢れていたゴミはほとんどなく(そもそも捨てるものがあまりないのだと思う)、車や多すぎる人が作り出す喧騒とは無縁で、人の声、動物の鳴き声、金物を叩いたり、麦を叩いたりする生活の音が、それぞれ独立して空気の中に漂っていて耳を掠めていく。

 何より不幸せそうな人を一人も見なかった(他のインドの道で不幸せそうな人をいっぱい見たという訳ではないけど)。たぶんここに住んでいる人はそんなに多くの大切なものを持っていないけど、その代わりに数少ない大切なものをしっかり大切にしている。そんな風に感じた。全てがあるべき場所にあるような光景が流れていき、走ってるだけで何故だか涙腺がゆるむ、そんな道だった。

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 日が暮れかけた頃、後輪がパンクした。ただでさえ時間がなくてあせってきていたのに、追い打ちをかける事態に途方にくれながらも、道の脇に自転車を横倒しにして修理を始めた。道を通る人は皆、止まって、話しかけてきたり、興味深そうに見てくるから、すぐにちょっとした人だかりが出来た。僕は苦笑いをしながら「パンクチャー」とか言いながら、作業を続ける。

 焦りと疲れから思うように修理が進まず苦労していると、バイクに乗ったおじさんが自転車屋に連れて行ってあげるから、車輪を持って乗ってけ、と言う。その間、自転車はその場のおじさん達が見てくれるという。自分で修理をすることも出来たし、自転車をその場に置きっぱなしにするのは不安だったけど、その時の僕は誰かに頼ってしまいたい気分だったので、少し迷った末にお願いした。

 自転車屋に着き、修理をお願いしている間、おじさんがジュースとサモサをご馳走してくれた。おじさんはあまりしゃべらない。皆が訊いてくるような、どこから来たかとか、何人なのかとかそういうことも訊いてこない。ただ僕が質問をすると短く答えてくれる。修理が終わり、僕が自転車屋さんにお金を払おうとすると自転車屋さんは微笑みを浮かべたまま首を横に振った。僕は繰り返し、お礼を言って、再度、おじさんのバイクの後ろに乗って、自転車を置いてある場所まで戻った。

パンクを修理してくれた自転車屋さん。
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 横倒しにした自転車の前ではさっきのおじさん達がそのままぼーっと立っていた。僕がお礼を言うと、しわだらけの顔に微笑を浮かべ、ゆっくりと頷く。彼らの中に流れている時間はとてもゆったりしたもののように思える。写真を撮っていいかと訊くと、快く承諾してくれたので、何枚か撮っていると、バイクに乗せてくれたおじさんが諭すように「暗くなるから、急ぎなさい」と言った。僕は再度、お礼を言って走り出した。

左がバイクに乗せてくれたおじさん。他は自転車の前で待っててくれたおじさん達。
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 その後、大きな道路に抜け、近くの街のホテルに止まった。この日走った道は、今、書くために思い出してみても、柔らかい麦畑の色合いと相まって、何となく夢だったかのような印象がある。地図にも載ってないし。

 次の日からは再び、ネパール国境に向かう比較的大きな道を走った。前日の道ほどではないにせよ、デリーからバラナシまでの道と比べると、人がゆったりとしている印象で、特に子供達が僕を見かける度、「バーイ」と言って手を振ってくれることがすごく多くなったのが印象的だった。

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 バラナシを出発して五日目の夜にネパール国境のあるスノウリという町に到着した。インドは結局約三週間走った。広大で深いインドを少しつまみぐいしただけだと思うけど、何か心の今まで揺さぶられたことのないところを揺さぶってくるような国だった。

206日目の走行距離約99km(ロカ岬からの走行距離9658km)
207日目の走行距離約87km(ロカ岬からの走行距離9745km)
208日目の走行距離約60km(ロカ岬からの走行距離9805km)
210日目の走行距離約100km(ロカ岬からの走行距離9905km)
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さんふぃ

Author:さんふぃ
ポルトガルロカ岬から、日本に向かって主に自転車で旅行中です。

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