旅の現象学

2012年から2013年にかけてのユーラシア大陸自転車旅行の記録です。

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シーラーズは大きな庭園や公園がたくさんある、緑が多い美しい街だった。
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世界遺産に登録されているペルシア式庭園、エラム庭園。
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イランを代表する詩人、ハーフェズの廟。
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 さて、シーラーズからはバンダレアッバーズというペルシア湾に面した港街まで行き、そこからドバイにフェリーで渡ろうと思っていたのだけど、そのフェリーに乗るのが思っていたよりも面倒くさく、またそこまで安くもなかったので、国際空港のあるこの街からドバイもしくはデリーまで直接、飛ぶことを考えた。

 それで飛行機に自転車を載せれるか、またそれにお金がいくらくらいかかるかを訊こうと、イランの航空会社のオフィスに行ってみたのだけど、まずフライトの価格を聞いてびっくりした。約8千円。一番確実に安い航空券を探せると評判のスカイスキャナーの何と3分の1以下の価格だった。経済制裁の影響か、イランの通貨レアルの公定レートと市場レートには三倍近い開きがあるのだけど、おそらくスカイスキャナーでは公定レートが適用されているのでこうなっているのだと思う。イランを旅行する予定で、イラン国内の航空会社を利用する人はスカイスキャナーを使わず、直接、現地のオフィスや旅行会社でチケットを取ることをおすすめします。その分の現金を持参することもお忘れなく。

 そもそもイラン国内のオフィスではクレジットカードが使えず、残りの手持ちのお金では確実に買えないと分かっていたので、オフィスでは話だけ聞き、海外のネット経由でクレジットカードが使えるスカイスキャナーでチケットを買うつもりだったのだけど、値段に差がありすぎるので、何とかクレジットカードでお金を引き出す方法がないかをオフィスの人に訊いてみた。そうしたらこのオフィスの人達を始め、親切な人達に助けられまくって、翌朝のフライトでドバイに行けることになってしまった。

 まず窓口の女性が銀行に連れて行ってくれたのだけど、海外から送金してもらうことはやはり現状出来ないらしく、どうにもならない。銀行から出るとその女性は申し訳なさそうに「これは私たちの問題だから」と謝り、足りない分は私が払う、後で返してくれればいいからと言う。僕は驚いて、借りたとしてもイランのあなたにそれを返せる保証がないし、そこまで負担をかけることは出来ない、そもそもこれは全然あなた達の問題じゃないから、と伝えた。そこまでしてもらう位なら、高くても当初考えていた通りスカイスキャナーでチケットを取ればいいと思ったし、そうじゃなくてもエスファハーンで買ったカメラを中古店に売れば、ここで買うためのチケット代を作れる気がしていた。僕がそれを伝えると、その女性は色々考えてみるからそれは最後の手段にして、と言う。
 
 僕がチェックアウトのために、一旦ホテルに帰り、再度オフィスに戻ると、彼女は航空会社の本社にディスカウントのチケットを発行できないか、何軒ものホテルにクレジットカードが使えないか、などいろいろなところに電話してくれている最中だった。待つこと約10分、遂に彼女は笑顔で「ここのホテルがカード、使えるって」と僕に受話器を渡した。僕は喜び、電話を受け取ったのだけど、話を聞いてみるとそのホテルでクレジットカードが使えたのは少し前までの話で今は使えないらしい。しかしそのホテルの人は何とか出来ると言うので、話を聞くと、結局私がお金を貸すよ、ということだった。僕はさっき窓口の女性にしたのと同じ説明をしたのだけど、その人はお金は海外の銀行口座に送ってもらえばいい、とにかくここに来なさい、と言うので僕はそのホテルに行くことになった。

 電話を終えると、僕は窓口の女性にとりあえずホテルに行くと伝えた。しかしお金の問題が解決したとしても、自転車を飛行機に乗せるための分解・梱包という大仕事が残っていて翌朝のフライトに間に合うかは分からなかった。それでチケットの発券はまだ待ってほしい、と伝えたのだけど「大丈夫。自転車は私たちが手伝うから」と彼女は言い、チケットは発券されてしまった。

 ホテルはシーラーズで一番高級な五つ星ホテルで、電話で対応してくれた人はそこのマネージャーだった。オフィスで話をすろと、その人は前に、タイに旅行していたときに自分も同じようなことを経験したんだ、だから遠慮しなくていい、と言う。それで結局お金を借りることになった。今夜はどうするのか、訊かれたので、空港で泊まろうと思います、と伝えると、それならこのホテルのロビーにいればいい、夜はたぶんpraying room(イスラム教徒が祈るための部屋)で寝ることも出来るし、朝も空港まで行く車を手配しよう、と言うので、僕はそれにも甘えることにした。

 お金を借り、航空会社のホテルに戻ってみるとびっくり。オフィスにいた男性二名のおかげで、何と自転車や荷物のパッキングが終わってる。窓口の女性は冗談なのか本当なのか「彼らはパッキングエンジニアなのよ」と言って微笑んだ。
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 ここまでやってもらいながらも僕はほとんど恐縮することがなく、ただただ感謝の気持ちだけを感じて幸せな気分だった。彼らの表情は、めんどくさいことになっちゃたな、とか仕方なくやっているということを全く感じさせず、僕はそこから善意しか読み取ることが出来ない。そういう表情は幸せそうだし、それを向けられた方も幸せだ。

アセマン航空オフィスの皆さん。
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 オフィスを出ると、再びホテルに向かった。夕食をごちそうになり、夜はpraying roomで寝た。管理のおじさんが丁寧に布団まで持ってきてくれた。翌朝、シーラーズ国際空港までホテルのタクシーで送ってもらい、無事、飛行機に乗ることが出来た。

お世話になったホーマ・ホテル。
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 実は前日、街を散策中にちょっと嫌なことがあった。若い男が通り過ぎ際に、おどけた口調でチンチャンチョン(アジア人の蔑称のようなもの)と言ってきたのだ。それを蔑称と意識しないで使う人もいるし、それまではあまり気にしてこなかったのだけど、美しい街を静かに楽しんでたときに耳に入ったその言葉は無性に僕の気分を悪くさせた。その後ももやもやした気持ちのまま街を歩き、若い人がくすくす笑っているのを見ると、それが自分に向けられたもののような気がして落ち着かなかった。

 イランでは本当に素晴らしい出来毎が多かったから、そういう気持ちを引きずったままこの国を去りたくないなと思っていたのだけど、このフライト関連のごたごたでイランの人の暖かさにたくさん触れ、胸いっぱいのありがとうを感じながら去ることが出来た。

約二時間のフライトでドバイに到着。
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 僕は結構頭が固いので、このブログはあまり固くならないようにしようと実は頑張っているのだけど、イラン編もおしまいなので、最後に固くなるのを承知で少し書く。

 イランでは人の親切に触れる機会が圧倒的に多かった。でもイラン人が皆、いい人かと言うともちろんそうではなくて、僕もカメラ泥棒とかさっき書いたチンチャンチョンの若い男とか、腹立つ人に会うことも結構多かった。
 
 僕がこの国で素晴らしい、羨ましいと感じるのは、いい人がいい人として生き続けることのハードルの低さだ。どこの国にもいい人はたくさんいるし、まあ極論、良い心は人間皆が持っているものなのかもしれない。でもその良い心に素直に従って生きるのはなかなか難しい。人間関係の駆け引きにもまれるうちにいつの間にか損得勘定で考えることに慣れてしまったり、ちょっとした親切をするのにも相手の顔色を伺い、裏に何かあると考えられてしまうのではないかと恐れ尻込みするようになったり。きっと日本にも他の国にも、そんな風にして埋もれてしまっているいい人はたくさんいると思う。

 この国ではそういう風に人の良い心を埋もれさせてしまう力が弱く、いい人が素直にいい人として生きているように感じた。吉野弘さんという詩人に「夕焼け」という、胸がつんとするようないい詩がある。引用はしていいか分からないし、内容を説明すると長くなるので興味がある人はネットで検索するなりして是非読んでほしいのだけど、この詩に出てくる娘がうつむかずに席をゆずることが出来るのがこの国の美しさなのだと僕は思う。
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コメント

素敵な写真と文章の大ファンです

偶然見つけてから、毎日更新がないか、楽しみにチェックしています。

残りの旅も、お気をつけて、素晴らしいものになりますように。

No title

このブログのクオリティは本当に凄いと思います。

なにか文章の勉強をされておられたのですか?

Re: タイトルなし

ありがとうございます!

自分の周りの人への、旅の共有のために始めたこのブログですが、見知らぬ人にも楽しんでもらえているというのは、すごく嬉しいですし、励みになります。

> 素敵な写真と文章の大ファンです
>
> 偶然見つけてから、毎日更新がないか、楽しみにチェックしています。
>
> 残りの旅も、お気をつけて、素晴らしいものになりますように。

Re: No title

いやぁ、ここまで持ち上げられてしまうと恐縮します(笑)

文章に関しては、勉強しているという訳ではないのですが、本を読むのが好きで、自分も何か書いてみたいと常々思っていたりします。

> このブログのクオリティは本当に凄いと思います。
>
> なにか文章の勉強をされておられたのですか?

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さんふぃ

Author:さんふぃ
ポルトガルロカ岬から、日本に向かって主に自転車で旅行中です。

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