旅の現象学

2012年から2013年にかけてのユーラシア大陸自転車旅行の記録です。

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 マケドニア国境に向かい峠をゆっくり登っていると、脇から羊の世話をしている少年が駆け寄ってきて話しかけてきた。いつものように、ほとんど英語は通じないのだけど、名前や、どこから来たとか、どこへ向かってるとかをジェスチャーを交えて伝える。そうしている内に少年が僕の自転車のフロントバッグに興味を持ったようで、開けてくれとジェスチャーで伝えてきたので、僕が開けると、少年は中のものを一つ一つ指さし、それが何なのかを訊いてくる。カメラ、タブレット、ウォークマン、文章を書くのに使ってるポメラ…。少年は一つ一つ触りたがるので、僕は渡す。そして一通り触り終わると、必ず自分を指さし「プリーズ」と言う。どれもあげられるものではないので僕はノーと言う。でもそれは昨日、少年に突きつけたノーとは違う。
 少年に言われるがままに写真を撮ったりして遊んだ後、僕が出発しようとすると、少年は掌を僕に差し出して、ねだり顔で「ミュージック、プリーズ」と言った。見たものの中でウォークマンが一番、欲しかったのだと思う。僕が苦笑しながらノーと言うと、少年はまたプリーズと言う。僕のノーと少年のプリーズが交互に山に響く。僕はそれをとても楽しく感じた。そうしている内に、スペインのガソリンスタンドでアイスを買ったときに一曲入りのプラスティック製の音楽プレイヤーをオマケとしてもらっていたことを思い出したので、かばんからそれを引っ張り出し彼にあげた。少年はニカッと笑い、一言「サンキュー」と言った。それから僕が自転車をこぎ出すと、昨日の少年と同じように彼も自転車の後ろを押しながら走ってついてきた。

少年。何かシンプソンっぽいな。
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マケドニア国境付近の風景。
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国境を越え、峠を下りて行き、オフリド湖湖畔のストルガという町に着く。
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 短い時間の滞在だったけど、マケドニアの人達もアルバニアの人達に負けずに暖かで、たくさんのやさしさと笑顔をもらった。ただ彼らはより慎ましやかで、例えば、遠くにいる誰かが僕に話しかけてくるとき、アルバニアの人がその場から声をかけたり、口笛を吹いたりするのに対して、マケドニアの人はこちらに歩いてきてから話しかける、そういう違いを感じた。ちなみにマケドニアではお金やものをねだられることは一度もなかった。

 ストルガでのエピソードを一つ。僕が自転車を止めて地図を確認していると、歩道の少し離れたところからおそらく小学校の低学年くらいだと思われる少年がこちらの様子をうかがっていて、僕が笑顔を向けると少年は英語で名前を訊いてきた。僕が答えると次に彼はどこから来たのと訊いてきたので僕が「フロム・ジャパン」と言ったら、彼は満面の笑顔で「アイ・アム・フロム・マケドニア!」と言った。うん、知ってるよ(笑)これには癒された。

この日はストルガからオフリド湖湖畔を東に進んだ、オフリドの町に泊まった。写真は夕暮れ時の聖ヨヴァン・カネオ教会。
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次の日の午前中は、オフリドの町と湖を散策した。
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湖面を見下ろすとすごい数の魚が泳いでる。
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 午後にオフリドを出発し、夜、ギリシャ国境前の最後の大きな町であるビトラに着いた。宿を探すためにwifiが飛んでるカフェに入り、ケーキが並んだショーウィンドを眺めていると、ウェイターの青年が声をかけてきて、おすすめを教えてくれた。こちらを緊張させない柔らかな表情と物腰の青年だった。僕が座った席までケーキとカプチーノを持ってきた彼は、僕に名前とどこから来たのかを訊いた。僕がそれに答え、逆に彼に名前を訊くと、彼は「日本語でroofは何て言う?」と言った。何を言っているのか不思議に思いながらも「やね」と答えると「イエス、ヤネ。それが僕の名前」と彼は言った。数か月前に日本語の先生をやっている韓国人の自転車旅行者が同じくこの店に立ち寄り、彼に教えたのだそうだ。「なぜかこの店にはよく自転車旅行の人が来るんだよね」僕らは打ち解けて、また後で会う約束をした。
 宿に荷物を置き、夕食をとってそのカフェに戻った。一杯カプチーノを飲んで少し話をするだけのつもりだったのだけど、彼が「もう少しで仕事が終わるからそれからどこかに行こう」と言うので、僕はちびちびとカプチーノをすすりながら待った。全然「もう少し」ではなくて結局二時間くらい待たされた後、僕達は地元のナイトクラブに行き、色々な話をした。
 将来の話になったとき、彼は海外で勉強をしたいと言った。マケドニアはいい国だとは思うけど、小さな国で、そこにい続ける限り将来の選択肢は限られる。彼との会話の中で、彼の非凡な頭の良さと新しいことを知ることに対する欲求の強さを感じていた僕は、彼にとってマケドニアは狭すぎるのだろうと思った。しかし外に出ようとしても、この国では他の国との経済の格差が高い壁になる。ヤネからマケドニアの月給の平均を聞いてびっくりした。約200ユーロだそうだ。他の国と比べて物価がすごく安かったので、賃金も高くはないだろうと思っていたのだけど、まさかここまで大きな差があるとは思っていなかった。
 日本にいるとき僕はときどき「もしお金があれば僕は…」みたいなことを軽々しく言ったりしていたけど、考えてみればこれまでの人生で強く何かをやりたいと思ったとき、お金が越えられない壁になったことは一度もない。今回の旅行だってそうだ。これまでに何人かの自転車旅行者に出会ってきたヤネは、自分もいつかやってみたいと言う。でも実際に旅に出ようとすれば、お金が僕よりもはるかに高い壁になるだろう。僕が少しばつの悪さを感じながら「何でそんな違いがあるんだろうね」と、言うと彼は「まあでもそういう違いが他の色々な違いを生みだしてそれが面白いんだよ」とあっさり言った。彼は常に物事のポジティブな面を捉える。僕はますます歯がゆい思いを感じた。
 翌日、出発する前に彼と待ち合わせをし、一緒に朝食を食べた。彼が日本で学んだり働いたりすることに興味があるようだったので、一緒にどんな選択肢があるかを調べてみると、ロボティクスに興味を持つ彼に、狭い門ではあるけれども魅力的な選択肢があることが分かった。そんな訳で彼は近い将来、日本に来ることになるかもしれない。お昼過ぎまでヤネと色々な話をした後、彼と別れ、僕はギリシャ国境に向かって出発した。

ヤネ
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75日目の走行距離約38km(ロカ岬からの走行距離4592km)
76日目の走行距離約73km(ロカ岬からの走行距離4665km)
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コメント

No title

そう、発展途上国へ行くとまず聞くのが「これ、くれ。マイフレンド」という言葉だ。
初めのうちは真に受けて辟易するのだけれど、そのうちに相手としては
特に深く考えもせずに、そういう国では豊かな親類が貧しい縁者を助けてくれるのは当然だから、
みたいなノリで言っていることに気付くこともあった。

あれ、ところで、これからギリシアへ入ってテッサロニキへ行くの?
それとも、このままブルガリア?
とりあえずのゴールはイスタンブールかな・

Re: No title

もう数日前にギリシャに入ってトルコまでだいぶ近いところにいます。
(ブログは数日の時差があるんですよ)
とりあえずのゴール、イスタンブールにはあと数日で着く感じです。
その後のことについては、イスタンブールに着いたらブログで書きます!

> そう、発展途上国へ行くとまず聞くのが「これ、くれ。マイフレンド」という言葉だ。
> 初めのうちは真に受けて辟易するのだけれど、そのうちに相手としては
> 特に深く考えもせずに、そういう国では豊かな親類が貧しい縁者を助けてくれるのは当然だから、
> みたいなノリで言っていることに気付くこともあった。
>
> あれ、ところで、これからギリシアへ入ってテッサロニキへ行くの?
> それとも、このままブルガリア?
> とりあえずのゴールはイスタンブールかな・

No title

シンプソンとしか言いようがない。

少年の写真を色補正して肌を黄色くしてもよかったくらいです。

Re: No title

性格もまたそれっぽいんですよ(笑)憎めないこずるさがあるというか。
> シンプソンとしか言いようがない。
>
> 少年の写真を色補正して肌を黄色くしてもよかったくらいです。

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さんふぃ

Author:さんふぃ
ポルトガルロカ岬から、日本に向かって主に自転車で旅行中です。

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