旅の現象学

2012年から2013年にかけてのユーラシア大陸自転車旅行の記録です。

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 朝、目を覚ますと、どこか懐かしさを感じる音のカーテンに包まれていた。少し時間が経った後、半分眠ったままの頭がその音の正体に思い当たると、ベットから抜け出し、カーテンを開けた。本格的な雨が降っていた。これまでずっとかんかん照りの日が続いていたので、この国で雨が降るという可能性が頭からすっぽり抜け落ちていた。お昼過ぎまで待ってみたけど、降りやむ気配が無かったので、この日は進むことを諦めて、溜まっていた洗濯物や、ブログの更新を片づけることにした。

 次の日も雨は結構な勢いで降り続いたけど、さすがにもう一日特にすることのないウェスカルに留まる気はしなかった。途中で雨脚が弱まることを期待して僕は出発した。日本でちょっとした雨なら傘もささずカッパも着ずに自転車に乗ってきた僕は、父親から借りた登山用の本格的なレインウェアを着てゆっくり進めば問題ないだろうと考えていた。
 時間が経つにつれ、その考えの甘さに気付いていく。長時間雨の中にいるのは短時間雨の中にいるのと全然違う。雨はゆっくりと体力を奪う。一向に止む気配もなく、雨は風と共に強くなり、しまいには遠くで雷まで鳴りだす。ウェスカルから30kmほど離れた町のバルに入る頃には、レインウェアの首元から入り込んだ雨でTシャツはぐっしょり、靴下も上からかぶせたスーパーの袋などほとんど意味をなさずびしょぬれになっていた。
 このままこの町に泊まりたいとも思ったけど、ここ数日、思うように距離を進めていなかったので今日こそはと思いバルを出た。幸いそれ以降は雨のピークも過ぎ、道も下り坂や平坦な道が続き、順調に進むことが出来た。そして町に入る直前、空からの大きな労いが待っていた。
DSC_2013.jpg

虹の向こう側。僕は昔カカシ役でした。
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 一枚目の写真の山と自分との間の野原に、僕は生まれて初めて虹の始まりを見た。虹がはっきり見えていたのはたぶん10分くらいだと思う。僕は素晴らしい場所でこの虹を見れた訳だけど、考えてみるとそれはいくつもの偶然の積み重ねによるものだった。写真の様に展望が開けてる区間は1kmもなかった。そして僕は自転車で1kmを、4分くらいで走る。虹が見えていた10分間とこの4分間が重ならなかったら僕はこの風景に巡り合えなかったということになる。あの時、休憩を取らなかったら、あの時、道を間違えていなかったら(僕はこの日、一度道を間違えて15分ほど違う道を走っていた)僕はこの風景に巡り合えなかった。そう考えると、この景色を目にしていることが奇跡のようにも感じられた。ペダルを回す足に力が入る。しかし少し進むとまた違う可能性に思い至った。虹はとても大きかった。僕が見たのとは違う場所で、同じようにこの時この場所でこの風景を見られたのは奇跡だと感じている人が何人もいるんじゃないか。ペダルを回す足にもっと力が入った。

 次の日は雨も降らず、道も平坦でとても走りやすかった。ただ一つ日が沈む時間が早くなっていることだけが想定外だった。スペインに入ったばかりの頃は9時過ぎまで明るかったのに、今はもう8時を過ぎると暗くなる。8時を過ぎた頃、目的の町までの距離は17kmだった。それくらいなら問題ないだろうと思っていたのだけど、ここにきてこの日一番の上り坂が続く。この日の走行距離は既に100kmを超えていて、ただでさえ体力的に厳しいのに、夜の峠道の肌寒さが追い打ちをかけてくる。頭をよぎる味噌ラーメン。迫るホームシックの影。何とか町に着く頃には、肉体的にも精神的にもかなり消耗していた。バレンシアに着いたらちょっと奮発して美味しいごはんを食べようと思った。

この日の道。
DSC_2060.jpg

20日目の走行距離約97km(ロカ岬からの距離1057km)。
21日目の走行距離約120km(ロカ岬からの距離1177km)。
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さんふぃ

Author:さんふぃ
ポルトガルロカ岬から、日本に向かって主に自転車で旅行中です。

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