旅の現象学

2012年から2013年にかけてのユーラシア大陸自転車旅行の記録です。

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この日は自分にとって特別な一日になった。
だからこの記事はいつもの記事と比べて、人に向けた文章にすることでこの一日を自分のために整理したいという思いがとても強い。他の人が読んでも面白くないかもしれないし、文章も多い。でも人に読んでもらいたいという気持ちもある。よければ最後まで読んでもらえればと思う。

前日、グラナダに着いたものの安宿がいっぱいで高め(30ユーロ位)のペンションに泊まることになってしまったので、朝、安宿を探しに街に出た。石畳の坂道で地図を見ていると、カップルが話しかけてきた。男性の方は他のスペイン人と比べればだいぶ英語がしゃべれる。彼はとても陽気で豪快な身振りを交えながら、どこから来たのかとか、自転車すごいな、とか話し続ける。女性の方は英語はほとんど出来ないけど、スペイン語で男性にあいづちを打ったり、僕に質問をし、男性に訳を求めたりする。二人とも本当に表情が豊かで僕はすぐに彼らを好きになった。しばらく話をしていると「ご飯、食べに行くけどくるか。ただで食べさせてやるよ」と彼は言った。

それで連れて行かれたのが、ここ。
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どう見てもご飯を食べる場所に見えない。最初は大学の食堂かと思ったけど、入口に並んでいる人達が完全に学生じゃない。浮浪者っぽい人たちがたくさんいる。話を聞いてみるとどうやらお金がない人たちのための公共食堂らしい。その中で僕はかなり浮いていたけどサイードたちのおかげで問題なく食べられた。

食堂を出ると誰が誘うこともなく、デヴィというくたびれた服を着てるけど優しい目をした若い男とトロンコという名前の同じくくたびれた犬が仲間に加わった。トロンコは勝手にとことこ付いてくるのだけど、いい感じの日影があるともぐりこんで寝ようとする。その度にマリアやデヴィが抱き上げて連れていく。トロンコはされるがまま。僕がマリアに「この犬、飼ってるの?」と訊くとノーと返ってくる。どうやらよく見知ってはいるけどただの野良犬らしい。

トロンコ。
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小さなスーパーマーケットでワインとコーラを買って、公園のベンチで飲む。大きな犬がトロンコを見つけて追い立ててくる。トロンコは逃げる。
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その犬の飼い主がしかりにやってくる。サイードが彼にワインをふるまい、しばらくその場で談笑する。
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そんな風にサイードは道行く人に話しかけ、足を止めた彼らにワインをふるまい、ふるまわれた彼らはかなり長い時間その場に留まる。

しばらくそんな風に公園で過ごした後、アルハンブラ宮殿の堀の小川に行き夕方までぐだぐだしていた。僕はデヴィと話をした。彼は色々な事情があって西洋文化の枠組みの中で生きることに強い疑問を抱き、定住生活を捨てて、各地を渡り歩いているらしい。僕が「今はどこに住んでるの?」と訊くと彼は「洞窟」と答えた。これは後で調べて分かったことだけど、グラナダにはジプシーの人たちが洞窟に住居を設けているらしい。たぶんそこに間借りしているという意味だったのだと思う。「今日泊まってってもいいよ」と彼は言う。

川辺を離れ、泊まる場所を探しに行くときになって問題が発生した。デヴィはさっきの話の通りに「俺の洞窟に来いよ」と僕を誘った。サイードはそれを良く思っていないらしく、止めさせようとする。空気が少し険悪になる。僕は最終的には洞窟に行かないつもりだったけど、デヴィが善意で誘ってくれているのも分かるので、いきなり無碍にすることが出来ない。
「とりあえず一回どういう場所か見てみろ。それで決めればいい」サイードが僕に言う。
それで僕はサイードと一緒にデヴィに付いていき、彼がここに自転車を止めておけば安全だ、と言う場所にまず向かった。

ぼろぼろの石の階段を昇って、ペンキがはがれた観音開きの扉を開けると、そこは完全にヒッピーのコミュニティーだった。青空の下にボロボロのマットレスが何枚も並べてあって、その上で男たちがパンツ一丁で寝転がっている。ボロボロの木のテーブルの上に布袋が置いてあって、その中から堅そうなパンや、熟れすぎた果物が覗いている。敷地内には長距離旅行者のものと思われる荷物をたくさん積んだ自転車が2台置いてあった。興味は引かれたけどここは僕の場所ではないなと思った。ここは帰る場所を持たないか、あるいは忘れようとしている人達の場所で、僕は帰る場所があるただのツーリストだ。デヴィが善意で泊まる場所を提供してくれようとしていたのは疑わないけど、僕はホステルに泊まるとデヴィに伝えた。最終的に握手して別れることが出来たからうまく伝わったのだと思う。

デヴィと別れた後、サイードとマリアにアルハンブラ宮殿を望む丘を案内してもらった。僕はサイードとゆっくり話をし、そこで初めてサイードがお金が無くて大学を辞め、今は職もなく路上で生活をしているということを知った。最初に話した時には、彼は自分が学生だと言っていた気がする。それが単純にミスコミュニケーションなのかそれとも見栄だったのかは分からない。「長くてもあと3カ月で、職が見つからなかったら俺は違う国に行かなきゃいけない」と彼は言う。「マリアはどうするの」と僕が訊くと二人とも笑っていた。「俺はマリアに路上で生活してほしくない。マリアにこんなにこんなに太ってほしいんだ!」大げさな身振りを交えながらサイードはそう言った。日が沈む前にマリアと別れた。彼女の家は裕福で父親が厳しく、門限がある。

マリアと別れた後も僕はサイードに連れられて、夜遅くまで街を歩いていた。結局朝から晩までずっと彼と一緒に過ごしていた。「どうしてこんなに良くしてくれるんだろう」そういう疑問が自分の中にうっすらと在り続けていて、僕は最後まで今日の見返りを求められる可能性を留保していた。特に彼が路上生活者だと知った後は、より強くその可能性を意識した。もしそうならそれでも良かった。仮に路地裏で身ぐるみをはがされても、僕は彼を信じたことに何の後悔もなかったと思う。

でも結局そんなことはなかった。最後にテイクアウトした一人前の中華料理も、僕はおごらせてくれと言ったのだけど割り勘だった。僕は見返りを求め、求められることに馴れきっている自分を情けなく思ったけど、彼の善意に打たれてへこむ余地もなかった。自分がどんなに苦しい状況にあっても、人に見返りを求めず善意を差し出せる、そんな人間に出会えたことが僕はたまらなく嬉しい。サイードとマリアに幸せになってほしいと心から願う。

サイードとマリア。
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さんふぃ

Author:さんふぃ
ポルトガルロカ岬から、日本に向かって主に自転車で旅行中です。

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