旅の現象学

2012年から2013年にかけてのユーラシア大陸自転車旅行の記録です。

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※長い間更新が滞っていてすいません。二週間ほど前にゴールして、その後はずっと府抜けていました。ちゃんと旅を終わらすためにもそろそろこのブログも完結させなきゃなと重い腰を上げた次第です。この記事を含めてあと2、3記事でゴールまでの道のりを更新していきます。今回は熊本から四国の松山まで。

 熊本市からは阿蘇に行き、阿蘇からはやまなみハイウェイを走り、湯布院などを経由して別府に抜け、そこから四国の八幡浜へフェリーで渡った。

 色々な国を走った後に日本を走ってみると、風景の情緒の深さに感動する。狭い土地の中に様々なバリエーションの景観が広がっていることもその理由の一つだけど、それだけじゃない。前回の記事とも被ることだけど、久しぶりに自分が育ったこの国に帰ってくると、目に映る様々なものに自分の記憶が染みついていることを感じる。具体的に思い出せる記憶から、もう原型を留めていない微かな感覚だけの記憶まで。例えばひなびた港町を見る。それを見て僕が感じることは、同じような港町で過ごしたときの思い出、その時そばにいた人の思い出、ひなびた港町が登場するいくつもの物語、歌、絵、それらについて思ったこと、それらに対して色々な人が語っていたこと、そんな無数の記憶の堆積から生まれているのだろう。

 様々なバリエーションの景色が、二十数年間、僕がこの国で生きてきて貯め込んできた様々な記憶が入った引き出しを開けていく。あるいは開けずともノックしていく。それがこの国の風景に僕が感じる情緒を生み出している気がする。きっとスペインの人もイランの人もインドの人も、そこで育った人にしか分からない情緒をその国の風景に見出すのだろう。その情緒は記憶への愛情に近いものなのかもしれない。僕はずっと故郷というものにこだわりがなかった。でも今は愛することの出来る記憶があるこの場所が僕の故郷だと感じる。まあそこから逃げ出したい黒歴史も結構あるけど。

 以下、今回のルートの写真ダイジェスト。

熊本市にあった懐かしい感じの踏切。
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阿蘇のパノラマ。
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阿蘇中岳の火口。
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緑の牧草地帯がずっと続くミルクロード。最高の季節に来たと思う。
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途中寄ってみた黒川温泉。この辺は本当に温泉が多くて、一日一回はどこかの温泉に入っていた。
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黒川温泉の夜。
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日本有数のワインディングロードやまなみハイウェイ。後ろに見えるのはくじゅう連山。
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由布岳に向かっていく道。阿蘇から由布岳までの道は、この旅全体でも屈指の景観の道だった。日本は本当に豊かな国土を持っていると思う。
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湯けむりの街別府に着く。
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別府地獄めぐりの一つ、海地獄。地獄めぐりって変わった温泉に入れるのかと思っていたのだけど、入れないんですね。
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高台から眺めた別府市街。各所に湯けむりが見える。
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四国上陸。八幡浜の港近くの昭和からタイムスリップしてきたような建物。
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海沿いの道を走っていて見つけた。これを作った人達が目に見えるようで、心に染みてくる。
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愛媛西側の海岸の道、ゆうやけこやけラインで見た夕焼け。
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 夜、松山に向かって峠を登っていると、ゆるゆると僕の脇を通り過ぎていった車が路肩に止まり、おばちゃんが窓から顔を出して僕を呼びとめた。

「もうひと踏ん張りしないとね、町に出ないのよ。店、なかったでしょ?それでUターンしてきたのよ」

それでこんなものをもらった。
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 度々書いてきたことだけど、海外を走っている間、見知らぬ誰かが話しかけてくれたり、飲みものや食べものをくれたりすることから本当に大きなエネルギーをもらっていた。そして僕はそれが海外を旅しているからこそ得られる感覚だと思っていた。海外の人達に対して僕はどこか壁を感じている。外見も言葉も違う僕のことを彼らはどう見ているんだろう、こっちの文化的に何か変なことをしてないだろうか、そんな疑問が作る壁が常に自分の周りにあり続ける。その壁を越えて、誰かが手を差し伸べてくれることが僕はとりわけ嬉しかった。でも日本の人達に対して、僕はそういう壁を感じていない。だから今まで日本で誰かが自分に手を差し伸べてくれたとき、感謝はしてもどこか当たり前のことのようにさらっとそれを受け取ってきていた気がする。

 ユーラシアを走り終え、日本を走っていると、誰かが話しかけてくれたり、何かをくれたりすることが思っていた以上に多くて驚いた。彼らの中に僕は海外でそうしてくれた人達と同じ心を見る。そしてそれは僕に同じように力を与えてくれる。そういうことがあると少しの間、ハイテンションのWhat a wonderful world!状態になり、その興奮が去った後も、前より少しこの世界とここで生きていることを好きになっている。

256日目の走行距離約46km(ロカ岬からの走行距離12412km)
257日目の走行距離約54km(ロカ岬からの走行距離12466km)
258日目の走行距離約47km(ロカ岬からの走行距離12513km)
259日目の走行距離約74km(ロカ岬からの走行距離12587km)
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 朝、フェリーは博多港に到着。だんだんと近づいてくる日本を甲板から眺めたいと思っていたのだけど、身支度をして甲板に出ると港はもうすぐそこ。空はどんよりとした曇り空。

博多港。おはよう、日本。
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 8ヶ月ぶりの日本では、まずイミグレーションの人の愛想の良さ、腰の低さが懐かしくそして新鮮だった。サービス精神のあるイミグレなんて、たぶん世界中探しても他にないと思う。預けていた自転車を無事に受け取り、外に出て走り出す。交差点では車が来なくても信号が赤なら皆が律儀に止まって青に変わるのを待っている。道路にはたくさんの車が走っているのにクラクションはほとんど鳴らされない。コンビニに入る。目新しいお菓子やアイスが目に止まる。日本の消費者に向けて作られたパッケージやコピーは、僕の食欲やら消費欲求やらに自分を手にするよう力強く訴えかける。僕は迷った末にスティックタイプのチーズケーキを手に取りレジに向かう。レジには元気なおばちゃんがいて、お客様に向けて作られた笑顔と声で僕に接する。それはただ型にはまった笑顔や声だとは感じられない。その笑顔や声の中に、僕は個人的な誠意のようなものを感じる。それが心地よい。僕もせいいっぱいの笑顔を作り、「ありがとうございます」と言って外に出る。それからまた走る。見慣れた形状の建物や看板、吉野家のお米の味、エトセトラ、エトセトラ…旅に出る前は空気のように当たり前のものだったいろいろなものに再会する度に、ああ僕はここで育ったんだな、という実感がしみじみと湧いてきて、にやにやしながら走る。

福岡の中州近く。
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 夜はイスタンブールで出会った、僕とは逆周りでユーラシア大陸を自転車で走った友人の家に泊めてもらった。日本も結構自転車で走っている彼と、埼玉までのルートを地図を見ながら一緒に考える。「阿蘇の方、いいですよ」と彼は言う。大きく広げた九州の地図を見ると阿蘇は福岡からずいぶん下の真ん中の方にあるから、僕は「思いっきり遠回りじゃん」と応える。「でも熊本まで大体100km、一日で行けますよ。阿蘇はそこからたった50km位だし」彼がそう言うのを聞いて僕は少し驚く。それから地図の縮尺を確認して初めて、九州が思っていたよりもずっと小さいことに気付く。旅以前と旅後で距離の感覚がだいぶ変わっている。自分の走ってきた距離の長さを具体的に感じた瞬間だった。それから改めて考えてみると、大した遠回りだとは感じなかったので、結局、阿蘇の方を走って、別府から四国にフェリーで渡るルートを走ることにした。

 熊本は福岡から一日で行ける距離だったけど、途中友人に会ったり、美味しそうなラーメン屋に寄ったりで二日かけて走った。特別に面白いルートではなかったと思う。でも久しぶりの日本の道を、僕はさまざまなものから故郷を感じながら走った。例えば案内標識に書かれている地名。日本の地名が僕の中に喚起するイメージは、海外の地名のそれと比べてとても重層的だ。海外の地名から喚起されるイメージは、本やテレビなど第三者の視点を通して得たイメージが中心になって形作られる。そのイメージはどこか一方通行だ。

 それに対して日本の地名から喚起されるイメージは、第三者の視点を通して得たイメージだけではなく、これまでの人生で関わりを持ったその土地にゆかりのある人達に関する思い出、字から連想される別の地名や言葉、更にその別の地名や言葉に関する思い出と、意識に上るものから上らないものまで色々なイメージが、重層的に響き合って形作られる。海外の地名から喚起されるイメージが一つのメロディーなら、日本の地名から喚起されるイメージは交響曲のようだと思う。

 そしてそれは地名だけじゃなく、人の表情や景色にも言える。旅に出る前は空気のように当たり前だったこの国の人の表情や景色が、僕が生きてきた二十数年間の記憶と大きなものから小さなものまで様々なトンネルで結びついていることを僕は感じる。そしてそういうことを感じる度に、ここが僕の故郷なんだとしみじみ思う。

道の写真を何枚か。
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熊本では熊本城に行ってみた。色々な文化の建築物を見てきた後に日本の城を見ると、その独特さがより感じられて期待していた以上に楽しかった。
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254日目の走行距離約93km(ロカ岬からの走行距離12290km)
255日目の走行距離約79km(ロカ岬からの走行距離12366km)

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さんふぃ

Author:さんふぃ
ポルトガルロカ岬から、日本に向かって主に自転車で旅行中です。

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