旅の現象学

2012年から2013年にかけてのユーラシア大陸自転車旅行の記録です。

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。
 グラナダから海外線に出てバレンシアを目指すか、内陸を通ってバレンシアを目指すかで迷った。前者は距離は長くなるけど高低差が少ない。後者はその逆。グラナダで時間を使いすぎたこともあり、少しでも早くバレンシアに着こうと僕は後者を選んだ。結果的に、直線距離にすると100kmちょっとを走るのに三日間かかり、全然時間の節約にはならなかったのだけど、とても密度の濃い三日間になった。

 グラナダを出るとシエラネバダ山脈の北沿いの道を進んだ。素晴らしい景色が続き、この時点でこの道を選んで良かったと思ってたのだけど、翌日以降、僕はまだこの地の豊かさの一端にしか触れていなかったことを知ることになる。

僕がアフリカに抱くイメージの風景。
DSC_1901.jpg

現時点のこの旅の最高地点。
DSC_1887.jpg

 午前中までグラナダを散策していたこともあって、この日はあまり進めずグラナダから60km程西に進んだグアディクスという街に泊まった。

 翌日も景色を楽しみながら順調に走っていたのだけど、ちょっとしたトラブルが発生する。僕はいつもルートの確認をGPS付きのアンドロイド端末で行っているのだけど、休憩した際にどこまで進んだか確認すると、事前に検索していたルートから数キロ違う方向にきてしまっている。いつも曲がり道の手前では確認をしているはずなのでおかしいなと思いつつ、引き返すのだけど道がみつからない。Googleマップを見ながらよく探すと、こんな道が見つかった。
DSC_1916.jpg

 何度確認してもこの道を行けということらしい。道は明らかに山の方に伸びているけど、他に行く道がないので僕は進んだ。未舗装路でしかも基本上り道だから、当然進みが遅い。もはや自転車が荷物でしかない。初めはGoogleマップを恨みもしたが、上の方までくると様々なバリエーションの絶景が続き、示された道を信じて本当によかったと思った。
DSC_1942.jpg

DSC_1950.jpg

DSC_1944.jpg

 こういう風景の連続に僕は言葉を失った。例えばテレビや写真である風景を見て、その風景を実際に見に行ったとしても僕はこんな風に感動することはなかったと思う。道で予期せず出会えたからこそ、僕は言葉を失うほど感動することが出来たのだと思う。自転車で旅行することにして良かったと心から思った。

それでもこの道には笑った。もはや道と言っていいのか怪しいレベル。
DSC_1969.jpg

日が傾き始め、このまま進んでも町に辿りつけなさそうだったので、初めてのキャンプ。
DSC_1976.jpg

 緊張のせいか夜中、半分覚醒した状態の夢の中でテントに訪問者が現れる。トナカイ、ヒッピー、他に見知った人何人か。初めての野宿でどのような訪問者が現れるかは心理テストのいい材料になるのではないか。
 夢から覚めると、テントの中は夢の中のそれより明るい。時計を見てもまだ午前三時だ。月明かりの明るさに驚き、さぞ満天の星が広がっているのだろうと外に出ると、以外にも羊雲が空を覆っていて、月も半月だった。それでもこんなに明るいのかと改めて驚く。

翌朝、テントをたたみ、Googleマップが示す道を進む。すると驚愕の事態が。
DSC_1981.jpg

 川があり、橋がない。向こう岸に道らしきものが見える。僕のGoogleマップはいつの間にios6に取って代わられたのだろうと思いつつ、しょうがないので靴を脱ぎ自転車を押して渡る。最深部の水深が30cmくらいだったので何とかなったけど、夏なのに水がものすごく冷たくて足が凍るかと思った。秋や冬に来ていたらどうなっていたのだろう。
 ここまでしてどこにも辿りつかなかったらどうしようかと思ったけど、この後は比較的まともな道が続き一安心。しかし道のあちこちに大量の馬糞が落ちていて、放牧された馬の群れも見えた。どうやら通ってきた道は主に馬のための道だったようだ。Googleマップの徒歩ルートというのは馬の徒歩も含んでいることが分かり勉強になった。

無事、舗装路に出ることが出来た。なんという安堵感。
DSC_1984.jpg

舗装路に出ても絶景が続く。アンダルシアの大地の芸術。
DSC_1990.jpg

これ、レンズ雲っていうんだっけ。
DSC_1991.jpg

この三日間で大分たくましくなった気がする。

16日目の走行距離約66km(ロカ岬からの距離813km)。
17日目の走行距離約61km(ロカ岬からの距離874km)。
18日目の走行距離約78km(ロカ岬からの距離952km)。
スポンサーサイト
 グラナダの居心地が良くて、四泊もしてしまった。街に親しみを感じられたのは、前回の記事で書いた出会いによるところも大きいと思うけど、それを抜きにしても色々な表情を見せる歩いていてあきない街だった。
 あと自転車旅行は考え事をするのに適しているかと思いきや案外そうでもなく、上り坂では「チクショウ」、下り坂では「ヒャッホウ」に頭の大部分が占拠されるので、ゆっくり考えることが出来ない(もちろん走っているときにしか考えられないこともあるけど)。だから旅行中にゆっくり考え事をしたい僕には一か所に留まる時間も必要だなと感じている。こうやってどんどんスケジュールがずれていく。

アルハンブラ宮殿の周囲の堀を流れる小川。この下でサイード達とだらだらしてた。
DSC_1814_2.jpg

ストリートミュージシャンの演奏に集まってくる人々。
DSC_1821_2.jpg

アルバイシンの丘から望むアルハンブラ宮殿。丘と展望台が多く、場所によって違ったパノラマが楽しめるのもグラナダの大きな魅力。
DSC_1829_2.jpg

同じくアルバイシンの丘から望むグラナダの夕景。
DSC_1861_2.jpg

夜の散歩道。
DSC_1874_2.jpg

深夜になってもにぎやかなアラブ人街。
DSC_1875_2.jpg

グラナダのバルでは飲み物を頼むとタパス(おつまみみたいなもの)が無料で付いてくる。
ワインやビールが1.5~2.5ユーロ位なのに、この量のタパスが付いてくる。太っ腹。
DSC_1876.jpg

 アルハンブラ宮殿にももちろん行ってきた。旅をすると自分の心が何に動いて何に動かないのかが分かって面白い。アルハンブラ宮殿に限らず、僕の心は歴史的な建築物に対してあまり動かない。歴史的な建築物は、見ている側が能動的に、こういう歴史があってこれは生まれたのか、こういう人生を送った人がこれを作ったのかなどの物語を付与することで初めて十全に現れる。僕にはそういう能動性が欠けているのだと思う。
 反対に街や人や犬や猫は、自分が何の意味を付与しなくてもそこにあり続ける。僕は、そのような今流れているものの中に身を浸すのが好きらしい。こんなことを宮殿を散策しながら考えていた。

 そんな僕でも歴史的な建築物に心が動く時がある。それは隣で他の誰かがその対象に心を動かしている時だ。となりで誰かがすごいすごいと言っていると、僕もそんな気がしてきて対象への回路が開く。一人旅でしか感じられないことも、誰かと一緒の旅じゃないと感じられないこともある。だから僕はどちらの旅も好きだ。

アルカサバ(軍事要塞だったらしい)とグラナダの街並み。
DSC_1705.jpg

一面、細かなレリーフ。よく作ったなと感心はする。
DSC_1733.jpg

宮殿内からグラナダの街を覗く。
DSC_1710.jpg
この日は自分にとって特別な一日になった。
だからこの記事はいつもの記事と比べて、人に向けた文章にすることでこの一日を自分のために整理したいという思いがとても強い。他の人が読んでも面白くないかもしれないし、文章も多い。でも人に読んでもらいたいという気持ちもある。よければ最後まで読んでもらえればと思う。

前日、グラナダに着いたものの安宿がいっぱいで高め(30ユーロ位)のペンションに泊まることになってしまったので、朝、安宿を探しに街に出た。石畳の坂道で地図を見ていると、カップルが話しかけてきた。男性の方は他のスペイン人と比べればだいぶ英語がしゃべれる。彼はとても陽気で豪快な身振りを交えながら、どこから来たのかとか、自転車すごいな、とか話し続ける。女性の方は英語はほとんど出来ないけど、スペイン語で男性にあいづちを打ったり、僕に質問をし、男性に訳を求めたりする。二人とも本当に表情が豊かで僕はすぐに彼らを好きになった。しばらく話をしていると「ご飯、食べに行くけどくるか。ただで食べさせてやるよ」と彼は言った。

それで連れて行かれたのが、ここ。
DSC_1625.jpg

どう見てもご飯を食べる場所に見えない。最初は大学の食堂かと思ったけど、入口に並んでいる人達が完全に学生じゃない。浮浪者っぽい人たちがたくさんいる。話を聞いてみるとどうやらお金がない人たちのための公共食堂らしい。その中で僕はかなり浮いていたけどサイードたちのおかげで問題なく食べられた。

食堂を出ると誰が誘うこともなく、デヴィというくたびれた服を着てるけど優しい目をした若い男とトロンコという名前の同じくくたびれた犬が仲間に加わった。トロンコは勝手にとことこ付いてくるのだけど、いい感じの日影があるともぐりこんで寝ようとする。その度にマリアやデヴィが抱き上げて連れていく。トロンコはされるがまま。僕がマリアに「この犬、飼ってるの?」と訊くとノーと返ってくる。どうやらよく見知ってはいるけどただの野良犬らしい。

トロンコ。
DSC_1630.jpg

小さなスーパーマーケットでワインとコーラを買って、公園のベンチで飲む。大きな犬がトロンコを見つけて追い立ててくる。トロンコは逃げる。
DSC_1640.jpg

その犬の飼い主がしかりにやってくる。サイードが彼にワインをふるまい、しばらくその場で談笑する。
DSC_1643.jpg

そんな風にサイードは道行く人に話しかけ、足を止めた彼らにワインをふるまい、ふるまわれた彼らはかなり長い時間その場に留まる。

しばらくそんな風に公園で過ごした後、アルハンブラ宮殿の堀の小川に行き夕方までぐだぐだしていた。僕はデヴィと話をした。彼は色々な事情があって西洋文化の枠組みの中で生きることに強い疑問を抱き、定住生活を捨てて、各地を渡り歩いているらしい。僕が「今はどこに住んでるの?」と訊くと彼は「洞窟」と答えた。これは後で調べて分かったことだけど、グラナダにはジプシーの人たちが洞窟に住居を設けているらしい。たぶんそこに間借りしているという意味だったのだと思う。「今日泊まってってもいいよ」と彼は言う。

川辺を離れ、泊まる場所を探しに行くときになって問題が発生した。デヴィはさっきの話の通りに「俺の洞窟に来いよ」と僕を誘った。サイードはそれを良く思っていないらしく、止めさせようとする。空気が少し険悪になる。僕は最終的には洞窟に行かないつもりだったけど、デヴィが善意で誘ってくれているのも分かるので、いきなり無碍にすることが出来ない。
「とりあえず一回どういう場所か見てみろ。それで決めればいい」サイードが僕に言う。
それで僕はサイードと一緒にデヴィに付いていき、彼がここに自転車を止めておけば安全だ、と言う場所にまず向かった。

ぼろぼろの石の階段を昇って、ペンキがはがれた観音開きの扉を開けると、そこは完全にヒッピーのコミュニティーだった。青空の下にボロボロのマットレスが何枚も並べてあって、その上で男たちがパンツ一丁で寝転がっている。ボロボロの木のテーブルの上に布袋が置いてあって、その中から堅そうなパンや、熟れすぎた果物が覗いている。敷地内には長距離旅行者のものと思われる荷物をたくさん積んだ自転車が2台置いてあった。興味は引かれたけどここは僕の場所ではないなと思った。ここは帰る場所を持たないか、あるいは忘れようとしている人達の場所で、僕は帰る場所があるただのツーリストだ。デヴィが善意で泊まる場所を提供してくれようとしていたのは疑わないけど、僕はホステルに泊まるとデヴィに伝えた。最終的に握手して別れることが出来たからうまく伝わったのだと思う。

デヴィと別れた後、サイードとマリアにアルハンブラ宮殿を望む丘を案内してもらった。僕はサイードとゆっくり話をし、そこで初めてサイードがお金が無くて大学を辞め、今は職もなく路上で生活をしているということを知った。最初に話した時には、彼は自分が学生だと言っていた気がする。それが単純にミスコミュニケーションなのかそれとも見栄だったのかは分からない。「長くてもあと3カ月で、職が見つからなかったら俺は違う国に行かなきゃいけない」と彼は言う。「マリアはどうするの」と僕が訊くと二人とも笑っていた。「俺はマリアに路上で生活してほしくない。マリアにこんなにこんなに太ってほしいんだ!」大げさな身振りを交えながらサイードはそう言った。日が沈む前にマリアと別れた。彼女の家は裕福で父親が厳しく、門限がある。

マリアと別れた後も僕はサイードに連れられて、夜遅くまで街を歩いていた。結局朝から晩までずっと彼と一緒に過ごしていた。「どうしてこんなに良くしてくれるんだろう」そういう疑問が自分の中にうっすらと在り続けていて、僕は最後まで今日の見返りを求められる可能性を留保していた。特に彼が路上生活者だと知った後は、より強くその可能性を意識した。もしそうならそれでも良かった。仮に路地裏で身ぐるみをはがされても、僕は彼を信じたことに何の後悔もなかったと思う。

でも結局そんなことはなかった。最後にテイクアウトした一人前の中華料理も、僕はおごらせてくれと言ったのだけど割り勘だった。僕は見返りを求め、求められることに馴れきっている自分を情けなく思ったけど、彼の善意に打たれてへこむ余地もなかった。自分がどんなに苦しい状況にあっても、人に見返りを求めず善意を差し出せる、そんな人間に出会えたことが僕はたまらなく嬉しい。サイードとマリアに幸せになってほしいと心から願う。

サイードとマリア。
DSC_1662.jpg
11日目

コルドバからグラナダに向かう。
グラナダはシエラネバダ山脈のふもと、標高738mの高所にある街だから、上りが大変そうな予感。

この日の道。やっぱり上りが多かった。
DSC_1590.jpg

この日はバエナという町に泊まる。
DSC_1595.jpg

たまった夏休みの宿題を終わらす小学生の気分になってきた。
このひはコルドバからバエナにきました、のぼりがおおくてとてもたいへんでした。

この日の走行距離約69km(ロカ岬からの距離635km)。

12日目

このひはバエナからグラナダにきました、のぼりがおおくてとてもたいへんでした。

この日の道①。がんばってるのになぜか進まない。振り返って初めて上ってたことを知る。
DSC_1605.jpg

この日の道②。ブーメラン。
DSC_1616.jpg

バエナから70km位は上り上り上り上り下り上り上り上り上り下りという感じ。
しかし最後30kmくらいはずっと下りと平地が続いて楽だった。
この日は丘や遠くの山脈が織りなす風景が刻々と変化するのを見ながら走れたので、
疲れたけどとても気持ちが良かった。

この日の走行距離約102km(ロカ岬からの距離737km)。
ここまで300キロ程スペインを走って、日本の価値観での都会に全く遭遇しなかったから、
コルドバはどんなものだろうと思っていたらしっかり都会してた。
DSC_1510.jpg

DSC_1516.jpg

広場が本当に多い。小さな広場にも大きな広場にも大抵バルがあって、
昼夜問わずテラスで老若男女がだべってる。
DSC_1503.jpg

メスキータのカテドラル。メスキータはイスラム教とキリスト教が同居する珍しい建築物。
DSC_1532.jpg

メスキータ内部。こんな柱が延々と並んでる。
DSC_1587.jpg

メスキータとロマノ橋の間にある門。この角度からは見えないけど、
門の裏で女性がヴァイオリンを弾いている。街が石造りだから遠くまでよく響く。
DSC_1555.jpg

ナニコレ珍百景コルドバ編。製作者に何を考えてこれを作ったのか問い質したい。
DSC_1497.jpg

スペインに入って初めての都会、コルドバ。
人と人の距離の近さ。おおざっぱさと懐の深さ。
小さな町と共通して感じたことも、都会だけで感じたこともありました。

スペインの都会については他の街も歩いてからまとめて書いてみたいと思う。
8日目

アレックスとオーレリアンと別れ、再び自分のペースで走る。
寂しさもあるけど自分のペースで走るのも気持ちいい。
疲れると日影に自転車を倒して、ハリボーを食べながらウォークマンを聴く。

それにしても9月のアンダルシアは暑い。
空気が乾いているから不快感はないのだけど、日差しのきつさは日本以上だと思う。
道路にしょっちゅう逃げ水(水たまりの蜃気楼)が見える。

この日の道。乾いた大地が続くアンダルシア。
DSC_1474.jpg

DSC_1478.jpg

この日はアスアガという町のホステルに泊まった。
スペインには小さな町にも大抵安いホステルがあるから旅行がしやすい。

この日の走行距離約81km(ロカ岬からの距離436km)。

9日目

この日のうちに130km先のコルドバまで着きたかったから、かなり頑張って走った。

ロカ岬から475km地点で、初のパンク。鋭い針金がタイヤを貫いていた。
タイヤは長期旅行者には定番、高耐久で耐パンク性能が高いシュワルベのマラソンプラスを履いているけど、
これは仕方ない。
DSC_1487.jpg

路肩でパンク修理。パッキングの下手さに泣いた。
DSC_1488.jpg

この日の道。上るなら下らないでください。
DSC_1491.jpg

なんとか暗くなる前にコルドバに着いた。スペイン初の都会。
ライトアップされたコルドバのランドマーク、メスキータ。
DSC_1547.jpg

この日の走行距離約133km(ロカ岬からの距離566m)。
続6日目

スペインの国境を超えてすぐの道路脇の小さな広場で、半裸の白人二人が
荷づくりをしてるのが見えた。
横には自転車が二台ある。どちらからともなく手を振る。僕は少し迷った末に、
そちらに自転車を寄せて話しかけてみた。

お互いたどたどしい英語でコミュニケーションをとってみると、
彼らはフランス出身でアテネを目指しているらしい。途中途中で僕とルートが被る。
それじゃ、しばらく一緒に行こうかということで走り出した。

左がアレックス、右がオーレリアン。
DSC_1436.jpg

彼らは一ヵ月半程かけてフランス、スペイン北部を通り、ポルトガルを南下してきたそうだ。
ただでさえ体力がある方ではない僕は、上り下りが多い道と相まって、
自転車旅行慣れしている二人に付いていくのにかなり苦労した。

一人で旅している時は疲れたらすぐに漕ぐのを止めることが出来るけど、
一緒に走っているとそういう訳にもいかない。
もうだめだと10回くらい思った。だけど何とかなった。
僕の心が叫ぶ「もうだめだ」はどうやら全然だめじゃないらしい。
この教訓は日本に帰ってからも忘れないようにしたいと思う。

この日の道。緩やかな上り下りがずっと続きかなり消耗する。
DSC_1437.jpg

国境から25kmほど走り、オリーバ・デラ・フロンテラという町に着いた。
バルのテラスに座って3人でコーラを飲んでいると、遠くからがまがえるの断末魔のような音が
断続的に聴こえてきた。
そちらを見てみると、四歳くらいの双子の女の子が片方の手で母親の手を握り、
もう片方の手で、おもちゃのラッパを交互に吹き鳴らしていた。
その瞬間、僕はこの国をすごく好きになれそうな予感がした。

その予感が当たってることをその日のうちに確信していく。
この国の人たちはとても人懐こい。例えば、宿の場所を誰かに訊くと、
周りにどんどん人が集まり話に加わってくる。
町は遅い時間まで活気がある。子供連れや老人が12時近くまで平気で出歩いている。
世代間に断絶を感じない。こういう子供がこういう大人になって、
こういう老人になるのかと想像することが出来る。

ポルトガルでもスペインでも観光地以外では英語がびっくりするくらい通じない。
ポルトガルではご飯を食べれて、宿に泊まることが出来るくらいのコミュニケーションが
出来ればそれでいいかと思っていた。だけどスペインの人たちにはこの人たちと
コミュニケーションをとってみたいと思わせる魅力がある。
この国に滞在している間にスペイン語を勉強しようと思った。

この日の走行距離約60km(ロカ岬からの距離295km)。

7日目

スーパーで食料品を買い込み、建物の日影で朝食をとる。
買い物かごいっぱいになった食料品を見て、「それ何日分?」と訊くと、
「今日の分だよ」と返ってきてびっくりした。
自転車旅行を始めて僕もだいぶ食べる量が増えているけど二人には全然及ばない。
DSC_1455.jpg

この日も上り下りの多い道が続く。というか平坦な道がほとんどない。
DSC_1461.jpg

日差しもきつく、対して進んでないのに疲労がたまる。

夜にサフラという町に着いた。この町はセビリヤを目指すかコルドバを目指すかの分岐点になる。
コルドバを目指す僕はこの町に泊まり、セビリヤを目指すアレックスとオーレリアンは先に進む。
バルセロナあたりでまた会おうと言って、僕等は別れた。
彼らからは旅の楽しみ方をたくさん教わった。

この日の走行距離約60km(ロカ岬からの距離355km)。
某ガイドブック曰くポルトガルで一番美しい村、モンサラーシュを歩いた。
DSC_1416.jpg

村の入り口から望むアレンテージョの大地。
良い地名は土地の魅力を1~2割増させると思う。
埼玉人の僕が言うのだから間違いない。
DSC_1402.jpg

おお、アレンテージョ。
DSC_1399.jpg

町を歩いている間、3か所でこの犬に会った。
うち2か所でマーキングをしていた。認めよう、君がこの村の王様だ。
DSC_1406.jpg

小さな町だから20~30分で大体周れるけど、僕は2時間位歩いていた。
とても静かで時間に追われたくなくなる村。
DSC_1411.jpg

ときどき教会の鐘の音が響く。どんなに澄んだ鐘の音も、空気が別の音に満たされていれば、
濁ってしまう。でもこの村では鐘の音がそのまま響く。
DSC_1414_20130509204454.jpg


二つの意味で天国への階段。
DSC_1415.jpg

モンサラーシュを去り、ポルトガルとスペインの国境へと向かう。
モンサラーシュ、ゆっくり考えたいことが出来たときにまた訪れたいと思う。
DSC_1419.jpg

国境はあってないようなもの。でも国境を境にアスファルトが変わったのは印象的だった。
DSC_1422.jpg

国境を越えてすぐに素敵な出会いが待っていた。

続く
4日目:リスボン~エボラ

リスボンからエボラという街に向かった。
大きな街から離れると、道中20~30キロくらい何もないのがざら。
日本と同じ感覚で走ると痛い目に会う。
今後3リットルの水とパンは常備しようと思う。

ときどき果物の露店がある。桃が美味しい。
DSC_1311.jpg

ポルトガルの普通の町。
DSC_1310.jpg

この日の走行距離約120km(ロカ岬からの距離165km)。

5日目:エボラ~モンサラーシュ

前日、よく走ったので朝は宿でゆっくりした。
走り出す前に、腹ごしらえをしようと街の食堂に入ったら、何かの間違いで巨大な肉塊が出てきた。
DSC_1315.jpg

自転車旅行はかなりカロリーを消費するから、なんとか食べきろうと思ったけど、無理だった。
ごめん、牛。

いっぱい食べたせいか、眠くなったので犬の隣で寝た。
悪い人が来たらきっと起こしてくれる。
DSC_1317.jpg

日影がなくなったので僕は先に行く。見張り、ありがとね。
DSC_1320.jpg

乾いた大地が続くアレンテージョ地方。
DSC_1331.jpg

カメラを向けると牛が威嚇してきた。きっとさっき肉を食べ残したことを怒ってるのだろう。
DSC_1344.jpg

丘の上にモンサラーシュの町並みが見える頃には夜になっていた。
写真では伝わりにくいけど、ライトアップされた教会や城壁が本当にきれいだった。
DSC_1375.jpg

基本的には夜は走らないつもりだけど、僕は夜自転車で走るのが好きだ。
視覚を補おうとするのか、夜は鼻が開く。
昼には通り過ぎていくだけだった乾いた草の匂いや土の匂いが、
具体的なものから抽象的なものまで様々な記憶を呼び覚ます。

宿のテラスからのモンサラーシュの町並み。
某ガイドブック曰く、ポルトガルで一番美しい村らしい。
DSC_1392.jpg

この日の走行距離約70km(ロカ岬からの距離235km)。
リスボンからユーラシア大陸の最西端、ロカ岬に向かった。
行きは電車で自転車を運ぼうかとも考えたのだけど、結局、往復自転車で走った。

途中のシントラという町。城跡などが多く世界遺産に登録されている。
DSC_1184_20130509203511.jpg

ざっくり地図を見てシントラからロカ岬は、1時間もかからないだろうと思っていたら、
とんだ誤算で、アップダウンの激しい道で着く頃にはもう日が落ち始めていた。
DSC_1196.jpg

ユーラシア大陸最西端の碑。ルイス・デ・カモンイスという詩人の「ここに地終わり海始まる」
という一節が刻まれている。
DSC_1232.jpg
僕はここから西に進むか東に進むか少し迷った末、東に進むことにした。

ユーラシア大陸最西端という付加価値を除いても、海が視界いっぱいに広がり、
気持ちのいい場所だった。
DSC_1268.jpg

最西端に沈む太陽。まあ夕日はどこから見ても最西端。
DSC_1274_20130509203513.jpg


ここでサイクルコンピュータの走行距離を0にリセットして、リスボンまで戻る。

この日の走行距離約90km(ロカ岬からの距離45km)。
リスボン、素晴らしい街でした。
DSC_1097_r.jpg


青空の下にはためく洗濯物。
DSC_1069_r.jpg


特に素晴らしかったのは夕暮れ時に行った、街を見下ろす丘の上に立っているサンジョルジェ城。

城壁の堀で猫が寝てた。
DSC_1105_r.jpg

城壁の囲いの中で、クラシックギターを弾いている人がいた。
DSC_1106_r.jpg

城壁の上を歩いている間中、ずっとこの人が弾くギターが聴こえてきた。
ギターの情緒が移ろう。空の諧調が移ろう。潮風が吹いている。
DSC_1113.jpg

ギターが本当に素晴らしかったから、帰り際におひねりを出そうとしたんだけど、
財布には50ユーロ札しか入ってない。でもどうしてもその人に、伝えたかったから
伝わるか分からない英語で話しかけてみた。

「ギター、本当に良かったです。この場所はすごくいい場所で、そしてあなたのギターは
それをもっと良くしてる。今お金を持ってないんだけど、どうしても
伝えたかったんです」

そうしたらギター弾きは、「ありがとう、ありがとう」と言って、
売っていたCDを僕に差し出した。

「これプレゼント。君は僕にとても良くしてくれたから」

数秒時間が止まった。それから僕も「ありがとう、ありがとう」と言って、その場を去った。

城から出ると堀のところでは、1時間以上前と同じ場所で猫が寝てた。
DSC_1128_r.jpg

涙が出そうになりました。
旅行に限ったことではないけど世界の豊かさに涙することほど幸せなことはないと思う。
まだ2日目なのにこのクライマックス感。

帰り道。
DSC_1151_r.jpg
昨日、無事リスボンに到着しました。
心配していた飛行機での自転車輪行も大きなトラブルはなかった。

自転車関係の話は自転車旅行をしない人にはあまり面白くないと思うけど、
僕がこの旅行を進めるにあたって、先人のホームページやブログにかなり助けられたので、
僕も次に旅立つ人のために役立ちそうな情報はなるべく残していきたいと思う。
自転車旅行をする予定のない人はさっと読み流していただければと思います。

で、僕は自転車を空輸するにあたって、下記の写真のように、大きな段ボール
(自転車を買ったときにもらった自転車用のもの)の中に、前輪とペダルを外して、
ハンドルを横向きにした上で、プチプチや新聞紙で傷みそうなところを
片っ端からぐるぐる巻きにして入れた。
画像 001
今回飛行機はブリティッシュエアウェイズを利用したのだけど、自転車という理由で
特別な超過料金を取られることはなかった(自転車の他に荷物をもう一つ預けたので、
預かり荷物の追加料金で約5,000円かかったのみ)。

到着後、手荷物受け取りのコンベアに流れてこなくてあせったけど、
lost buggageの係りの人に訊いたら、大きな荷物は別のコンベアに流れてくると教えてもらい、
無事受け取れた。税関も問題なく通れた。

で、空港の外で組み立てる。外に出たのは18時くらいで、荷物を積み終わるまで大体2時間くらい。
これは慣れればもっと早く出来ると思う。幸いポルトガルは日本よりだいぶ日が長くて、
暗くなりきる前に完了出来た。空輸で傷ついていたりすることもなく一安心。
画像 003
なかなか大げさな格好。漕いでみるとハンドルが重いけど、まあ何とかなりそうな範囲ではある。
昨日は空港から5キロくらいのユースホステルまで走った。

今日はリスボン周辺の観光とこまごまとした旅行の準備をし、明日ユーラシア大陸の最西端ロカ岬から
自転車旅行を始める予定。
気持ちが昂ぶって眠れないので、このブログのタイトルについて書きます。
最初の記事で更新が滞る雰囲気を醸し出しつつ、早速次の記事を書いている。
これはなかなかいい傾向。

学生の頃、世の中の多くの若者と同じく、自分探し的な何かが大きなモチベーションになって、
わりとよく旅をしましたが、旅を重ねるにつれ、そういうモチベーションは
どんどん薄くなっていきました。
どんなに遠くに行こうと自分は自分で、ここじゃないどこかで自分と違う自分を探しても、
そんなの見つからない、そういうことに気づいていったからだと思います。
そんな訳で、今回の旅行では何かを探したいという、気持ちはあんまりありません。

じゃあ、何が自分を旅に衝き動かすんだろうとと考えたときに、
いくつか思い浮かんだ理由の中で一つしっくりきたのが、
見たことのない風景や、会ったことのない人たちを通り過ぎていくことで、
自分の中に生まれる(現象する)何かを見てみたいという願望でした。

そんな訳で、このブログのタイトルは「旅の現象学」になりました。
ちゃんちゃん。
自分語りは少し恥ずかしいので、歌うたい仲間からもらった風呂敷↓
9月9日からたぶん半年くらいの間、主に自転車で海外を旅行する予定です。
とりあえずの目標はポルトガルのリスボンから、トルコまでを走ること。
その後はインドとか東南アジアに行きたいと思っています。
(自転車かどうかはまだ分からないですが)

とりあえず作ってみてほったらかしにしてたブログだけど、
旅立つ前に一記事でも書いておかないとずっと放置することになりそうなので、
書いておくことにしました。

ブログを作った当初の目的は、旅先で考えたことや感じたことを、
人に向けた文章にすることで整理したいという、割と内向きなものだったけど、
今回旅立つにあたり、周りの人のやさしさに想定外にじーんとすることが多くて、
そういう人たちに旅のおすそわけが出来ればいいなぁ、という気持ちが割と強くあったりします。

そんな訳で写真多めで定期的に記事を更新していけたらと思ってはいるのですが、
ネットがどの程度使えるか分からないし、いざ旅を始めたらなかなか余裕が出来ないということも
あると思うので、更新があまりなくてもお許しください。それでは!

DSC_0979_convert_20120906004634.jpg

より大きな地図で 旅の現象学 を表示

さんふぃ

Author:さんふぃ
ポルトガルロカ岬から、日本に向かって主に自転車で旅行中です。

この人とブロともになる

上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。