旅の現象学

2012年から2013年にかけてのユーラシア大陸自転車旅行の記録です。

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エクス=アン=プロヴァンスからニースを目指す。コートダジュールの海岸に出るまではのどかな田園風景が続く。
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休耕地でキャンプした翌朝テントを出ると、靄が立ち込める中、露に濡れたクモの巣が至る所に現れていて、とても幻想的だった。
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フレジュスからコートダジュールに入る。ビーチはスペインでたくさん走ったのでしばらくいいかなと思っていたのだけど、コートダジュールは海岸線のバリエーションがとても豊かで走っていて本当に気持ちが良かった。
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ニースに到着し、ユースホステルのドームに入ると、ベッドの一つに僕のと全く同じオルトリーブ(ドイツの自転車用バッグのブランド)のパニアバッグが立てかけてあった。僕は自転車旅行者に出会えることを喜び、荷物を置いて夜のニースの散策に出かけた。
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 ホステルに戻り、ドームのドアの前に立つと中から野太い悲鳴のような音が断続的に聴こえてきた。中に入るとそれは黒人男性のいびきだった。ベッドで道路工事が行われているレベルの騒音で、これまでの人生の中でダントツにやばいいびきだった。ただうるさいだけでなく非常に性質が悪い。音に規則性がなく、数々の音色をランダムに使い分け、そのどれもがとてつもなくうるさい。部屋を離れ、憂鬱な気持ちで歯を磨いていると、髭もじゃの若い男性が部屋にやってきた。僕ともう一人の自転車旅行者以外のベッドはすでにほとんど埋まっていたので、話しかけてみるとやはり彼も自転車で旅をしているとのことだった。ステファノという名のイタリア人の彼は、マドリードからトリノの実家を目指しているらしい。部屋に入った彼の第一声は「Oh,shit!」僕等は一端、バーに避難し、旅の情報を共有することにした。
「俺は明日、ここからジェノヴァに向かう途中のインペリアに行くんだ。そこで親父の知り合いのアパートに泊まれるんだけど、良かったら一緒に来ないか?」
 ステファノが言った。魅力的な提案に思えたけど、翌日はどうしてもニースから10km程離れた崖の上にあるエズ村を散策したかったので、翌朝に断るつもりでとりあえず答えを保留にしておいた。

 部屋に戻ると相変わらずものすごい騒音だった。何とか眠ろうと思ったけどとても眠れない。最終的に黒人男性が祈りのような言葉を大声で唱え始めた時点で、僕は眠ることを完全にあきらめ、ラウンジで翌朝までずっと今後の旅の計画を立てていた。黒人男性が起きたのを確認し、ベッドに戻れたのは朝の七時頃だった。

 何とか二時間程眠って、朝食を食べに行くとステファノは先に座っていた。彼はどうやら枕の下に潜り込むことで、僕よりもちゃんと眠ることが出来たらしい。
「今日の計画は決まった?」
 彼が訊いてきた。僕は完全に断るつもりでいた。ただでさえ断る方に傾いていた上、昨夜はほとんど寝れていないし、おまけに外は追い打ちをかけるように雨が降っている。なのに僕は「一緒に行かせてくれ」と答えていた。「エズ村にはどうしても寄りたいから少し遠回りになるけど寄らせてくれないか」と頼むと、ステファノは快諾した。僕達はまだ睡眠を求める体に鞭を打ち、エズ村に向かって出発した。
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44日目の走行距離約48km(ロカ岬からの走行距離2451km)。
45日目の走行距離約72km(ロカ岬からの走行距離2523km)。
46日目の走行距離約79km(ロカ岬からの走行距離2602km)。
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ニームを出発し、プロヴァンスの田園地帯を走る。光がとても優しく感じられる。実際に光度や光を受ける対象が変わったのもあると思うし、僕がこの土地がセザンヌやゴッホなどの印象派の画家と縁の深い土地だと知っているから、印象派の絵画に重ねて光を見ているというのもあると思う。昔はそういうフィルターを通してものを見るのが好きじゃなかった。でも今は、世界が豊かに見えるならそれでいいじゃないかと思う。そもそもフィルターなしで世界を見ることなんて出来ないのだし。
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何日か前から、やたらと食が細く、少し自転車をこぐだけですぐに疲れてしまう状態が続いていたので嫌な予感はしていたのだけど、アルルで本格的に体調を崩し、二日間この街に留まった(この記事を書いてる今は完全に回復しています)。 

夜のアルル。ゴッホの絵に出てくるカフェ。
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アルル二日目は宿のおじさんにアルルの北に広がる広大なカマルグ湿原地帯と海辺の町、サント=マリー=ド=ラ=メールに連れて行ってもらった。カマルグ湿原地帯では野生の白馬やフラミンゴの群れを見た。

小さな点々がフラミンゴ。この日は雨天だったけど、晴れているともっと数が多くピンク色が太陽の光で際立ってとてもきれいらしい。
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アルル三日目の朝、起きると何とか自転車をこげそうな状態まで快復していたので、約80km先のエクス=アン=プロヴァンスを目指して走った。

道中の田園風景。
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エクス=アン=プロヴァンスの街並み。
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41日目の走行距離約39km(ロカ岬からの走行距離2321km)。
43日目の走行距離約82km(ロカ岬からの走行距離2403km)。
 
 カルカソンヌで一泊し、ナルボンヌまで電車で戻ると、そこからモンペリエ経由で三日かけてニームに向かって走った。
 フランスに入って街を歩く時間が増えた。街に着くと、荷物を宿に置いて散策し、朝、出発する前にもう一度散策するのが、パターンになっている。そのおかげで歩いている時と自転車に乗っている時の思考がだいぶ違うことが分かってきた。歩いている時の思考が 比較的系統だっているのに対して、自転車に乗っている時の思考は、流れていく風景にのってジャズのアドリブのように変化していく。
 僕はそういう自転車のリズムが好きだ。この旅行のことを誰かに話すと大抵、何で自転車なの、と訊かれる。今までしっくりとくる理由を見つけることが出来なったのだけど、これが僕が自転車で旅行する一つの大きな理由だと思う。

カルカソンヌ
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モンペリエ
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ニーム
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 知らない街を歩くのは楽しい。次々と訪れる新しい発見。もう二度と訪れないかもしれないという想いが感性を開いてくれる感覚。だけど歩きながらずっと、何かが足りない感じがしていた。ニームの街を歩きながらそれについて考えていて、僕を旅へと誘う原風景の一つに行き当たった。
 それはまだ小さな子供の頃、知らない街を家族と歩いているときの記憶だ。今、こうして知らない街を歩きながら、僕はそのときに感じていたものを求めていることに気付く。時間をかけてその記憶を見つめてみると、その記憶を色づけていて、今この場所にないものにも気付く。それは知らない場所で近しい誰かと一緒にいる特別な感覚だ。一人なのに一人じゃない孤独と裏合わせの親密さ。もちろんこの旅でその感覚を得ることはないわけだけど、この気付きから僕は静かな満足感を得ることが出来た。

38日目の走行距離約57km(ロカ岬からの走行距離2176km)。
39日目の走行距離約51km(ロカ岬からの走行距離2227km)。
40日目の走行距離約55km(ロカ岬からの走行距離2282km)。
 フランスに入った翌日の朝、荷物をまとめてユースホステルを出ようとすると、踊り場で歯磨き中の白人男性と鉢合わせた。見覚えがある顔のような気がするのだけど、頭がまだ寝ぼけているのか、すぐに記憶が引き出せない。少しの間、お互い目をぱちくりさせた後、白人男性が先に僕の名前を声に上げた。
 ポルトガルとスペインの国境で出会い、二日間一緒に走った二人組のフランス人自転車旅行者の内の一人、オーレリアンだった。まさか僕よりも四日早くバルセロナを出発した彼らにこんなに早く追いつけるとは思っていなかったから驚いた。チェックアウト時間が迫っているというのにまだ寝ているもう一人のアレックスをオーレリアンと一緒に驚かす。その後、三人でランドリーに行き、溜まっていた洗濯物を済まし、走り出す。

ランドリーの主人とだべる二人。
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 走り出してしばらくは平坦な道が続く。一カ月前と違い、特に頑張らなくても彼らについていくことが出来る。アレックスが「前よりも走れるようになったじゃん」と言う。最近、僕もそう感じ始めていたから、自信が深まる。しかし時間が経ち、向かい風が吹いてくるとだんだん距離が空いてくる。

写真を撮っている場合か!
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 後半は彼らに風よけになってもらい、ぴったり後ろについて走っていた。まぁ彼らの自転車がロードバイクベースで僕の自転車がマウンテンバイクベースという差はあるのだけど、深まりつつあった自信はしっかりリセットされた。こんなに速く走ってるのになんでまだこんなとこにいるのか、と訊くと、あんま自転車乗ってないんだ、と彼らは答えた。どうも彼らは旅に疲れてきているようだった。「まぁ君も三カ月目には分かるよ」とアレックスは言った。

 夕方頃から雲が厚みを増して、ぽつぽつと雨が降り出す。冷たい風がびゅうびゅう吹き秋を抜かしていきなり冬になったような寒さだった。こんな天気だと、一人だったら多少お金を出しても宿に泊まるのだけど、この日は三人でキャンプをすることになった(ちなみにスペインではどこの町にも大抵、20~25ユーロで泊まれる安宿があったのだけど、フランスにはない。ユースホステル以外の宿だと、最安でも35ユーロくらいはする)。
 夜遅くまで隣のテントでは、アレックスとオーレリアンがまるで修学旅行中かのように笑ったり話したりしていた。ちょっとうるさかったけど、やはりとなりに誰かがいるのは安心だ。僕は耳栓を付けて寝た。それにしても二カ月近くずっと一緒に走っているのにどこから話すことが生まれてくるのか不思議だった。性格も大分異なる二人なのだけど、割れ鍋に綴じ蓋といった感じの本当にいいコンビだと思う。

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 翌日、ナルボンヌまで一緒に走り、そこで僕はルートから離れたカルカソンヌに電車で寄り道するために別れた。彼らと別れるのはこれで三度目だ。別れ際、次はモンペリエかマルセイユで会おうといつものようにゆるい約束をした。

風景がないのがさみしいので最後に一枚。フランスに入ってから空の感じが変わった気がする。
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36日目の走行距離約58km(ロカ岬からの走行距離2086km)。
37日目の走行距離約33km(ロカ岬からの走行距離2119km)。 

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さんふぃ

Author:さんふぃ
ポルトガルロカ岬から、日本に向かって主に自転車で旅行中です。

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